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【またいじめてください、忘れられないんです。『第2話:夏休みが終わった翌日』】著者:KR






9月1日早朝。



僕は シャワーを浴びて、身体をごしごし洗います。


清潔に見られたいからではありません。


殴ったり、蹴ったり、つねったりして頂く皆さんの手足を汚さないためです。


バイキンと言われ、普段は「エンガチョ」されて当り前の僕に、夏休み明けに、手をかけて頂くのですから。

思春期で生え始めた陰毛も丁寧に剃ります。登校した時、チェックされるでしょうから。


そこで叱られるのを避けたいという気持ちより、背も低く成績も低い私が、同世代の皆さん並に発育している部分はそぎ落とさなければならない。安心して殴れるような自分になるべく、見えないところでもこうして用意している。

そんな自分の惨めさを受け容れるところから、劣等種の新学期は既に始まっているのです。


思いっきり足跡や黒板消しで汚していただくための、 きれいにクリーニングされた学生服に袖を通し、夏休み中に親の財布から少しずつ抜き取ったり、何か買うと言ってもらった金を貯めておいたり、そうして集めた一万円札十枚を、綺麗な封筒に入れます。

土下座しながら両手で持ったそれをいじめっ子のリーダー・YKさんに差し出す時の自分をイメージしながら。


「二学期もよろしくおねがいいたします。上納金を持って参りました」






こういう時、YKさんは素直に嬉しそうな表情になります。僕は自分が認められたような喜びを感じ、そんな風に感じてしまった自分の奴隷根性に屈辱感を抱きます。まだ自分の中にも残っていたいじめっ子への反抗心。
 
またそんな毎日が始まるんだと思いながら、僕はふと思い立って、一万円札を一枚だけ抜きます。


お金がもったいなくなったからではありません。


十万円から一万円足りなければ、当然「もう一万円用意しろよ」「どこかに隠してんじゃねえのか」と身体検査されるでしょう。


案の定、翌日の自分はその立場に追い込まれました。ズボンの後ろポケットに畳まれたもう一万円を発見されて「なんだこれは」と目の前に突き出され、「舐めんなよ」と、YKさんのパンチが僕の腹に食い込みます。

僕は内心予定調和を感じながら苦痛に顔を歪め、おおげさにその場で膝をつきました。

おあつらえ向きに背中を見せた僕に、大柄なYさんの仲間たちの蹴りが後ろから飛びます。

前のめりで倒れた僕の口に校庭の砂が入り込んだのを見降ろして、「最初から素直に出せばいいんだよ」と明るい笑顔で去っていくYKさんたち。


校庭の隅のこの出来事は、多くの生徒たちに目撃されています。


僕は、いじめの現場を多くの生徒に目撃させて、自分の被害を訴えたいのではありません。

十万円耳を揃えて出せるのに、一万円抜いたのは、マゾの持つ無意識の本能のようなものです。


いじめられるという役割を刷り込まれているために、無意識におあつらえ向きの態度を取ってしまう。

それはどこか「演技臭い」と思われ、だから目撃者がいても、あまり同情しようという気が起こらない。ますます自分を追い込む結果になるのです。

けれど僕本人には、演技であるという自覚はない。九万円だって高いのに、一万円足りない事を責められる結果を自ら選んでしまった。

十万揃えて献上すれば、一瞬でも喜ばれて、奴隷として嬉しい気持ちを持つことも出来るのに。


一万円足りないことだけが、重要であるとして制裁されてしまう。


その悔しさ……いじめに対してよりも自分が招いた不条理な行動へのショックから、能面のような僕の顔は知らず涙で濡れてしまいます。

9万円の価値も覚悟も、一瞬のうちに無に帰してしまったのですから。


本当にもッたいなかったら、一万円札は家に置いておきます。


Yさんはそんな甘い人ではないとも思ってました。家に置いていたとしても、「取りに帰ってこい」って命令するに決まってると。「9万出せる奴には、10万出させる」方です。僕が抜いた事実を知らなくても。


だから耳を揃えて献上できる金額に達した時は、嬉しかったです。なのに……。


横に並んで正座している、同じクラスで奴隷扱いされているもう一人・SYは、ちゃんと最初から耳を揃えて献上しています。


その姿が、羨ましく思えました。




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